【親知らず難抜歯が抜随(神経を抜く)に❗】5
親知らず(=親不知・=智歯(ちし)・=第三大臼歯・=Wisdom-teeth)の難抜歯については何どかお話しさせていただきましたが、今回で5回目になります。今回は1回で抜くのが難しい場合の対応についてお話しさせていただきます。
親知らずの根の先と下顎管といわれる神経,血管が走行している管までの距離は,日本人の場合,平均2.7mmといわれています.深く埋まっている場合はそれだけ,神経との距離が近くなり,抜歯後に麻痺や違和感などの不快症状がでる可能性が高くなります.
特に神経と接している確率が高いケースとして,
①下顎智歯萠出(ほうしゅつ)スペースがない
②深部埋伏している
③白線(下顎管)と深く交わっている
④白線が不明瞭
⑤歯根膜腔の不明瞭化がみられる
⑥下顎管の屈曲が認められる
などの所見が術前のX線検査で確認されます.また,このような場合はCTの検査をおこないます⬆の○は白線=神経(CT像)
神経麻痺は大変不快な症状ですし,長く症状が続いて完全に回復しきれないこともあります.麻痺を避けるためには術前の的確な診査診断,術中の愛護的な操作などが重要になりますが,
①2回法抜歯
②Coronectomy(コロネクトミー)
③抜随法(神経を抜く)
といわれる方法も選択肢になります.
2回法抜歯とは文字通り,2回にわけて抜歯をおこなう方法です.
【手順として】
✳1回目処置:萠出の障害となっている智歯歯冠部を削除.デンタルX線写真・パノラマX線写真にて削除されているかを確認.
✳約1~3か月待機し,パノラマX線写真にて歯の移動を確認
✳2回目処置:通法どおり抜歯をおこなう
という流れになります.
【2回法抜歯の利点・欠点】
【利点】
✳1回の処置時間が短い
✳知覚異常出現を抑制する可能性がある
✳2回目処置時の抜歯が容易な場合が多い
【欠点】
✳同一部位を2回治療しなければならない
✳治療期間が長い
✳歯髄炎をおこしたり,感染を引き起こす可能性がある
✳必ずしも知覚異常を回避できるわけではない
もう一つのCoronectomy(歯冠除去術)とは,親知らず抜歯に伴う神経損傷を回避するため,歯冠部を除去し歯根部を骨内に残存させる方法です.原則として歯根の摘出は行いませんが,術後の経過により歯根の摘出を必要とする場合もあります.
本日の症例は、抜歯を試みるもCT像からも2歯根の弯曲が明らかで、抜歯困難な為に神経の治療になった症例です。⬆は弯曲している2根❗(CT像)親知らずの神経の位置を器具で確認❗
✳私の中での優先順位は
組織の挫滅や血管損傷までして抜歯を推し進めることは患者さん自身に色々な弊害、即ち持続的な患部の痛み・腫れ・顎関節痛・口角炎・リンパ節の痛みなどを起こし予後が悪くなります。さらには過度な力を加えて組織を挫滅して蜂窩織炎(ほうかしきえん)を併発したりして予後を悪化させることなどが考えられます。
ですからあえて無理強いはいたしません。
勿論、可及的1回で抜歯が完了したら申し分ないのですが・・・。
あえてこのような症例をご提示させていただきました。
✳医療ですから日々色々な患者さんに遭遇いたします。しかし患者さんファーストであることには間違いはありません。リスクを背負いながら結果ファーストにこだわり先を進み大事故だけは日々避けようと診療に心がけております。
✳4月からは常勤で2名の歯科医師の先生方(♂口腔外科学歯科医師、♀高齢者歯科学歯科医師)をお迎えすることになっております。先生方と協力して更なる医療をご提供したいと考えております。
今後とも医療法人慈愛会大久保歯科医院をどうぞ宜しくお願い申し上げます。